浸水パチンコ店の法的リスクを弁護士が指摘 従業員こそ知っておくべき権利
先日取り上げた、千葉県のホール浸水動画の続報です。法律メディアが正面から取り上げ、店側の法的リスクを具体的に指摘しました。
弁護士ドットコムが「感電事故が起きたら」を解説
8月14日、弁護士ドットコムニュースが「千葉豪雨、水につかった店内で『パチンコ台』が稼働する動画拡散…もし『感電事故』が起きたら?」という記事を公開しました。
業界側でもこの動きは注視されており、法的リスクへの警鐘としてSNSで共有されています。
前回は「批判されるべきは客か店か」という話を書きましたが、今回はその答えが法律の言葉で出た形になります。
まず前提の確認
8月13日から14日明け方にかけて猛烈な雨が降り、千葉市では24時間雨量が350ミリを超えました。県内では店舗の浸水も相次ぎ、休業を余儀なくされた飲食店も少なくないとされています。そんな中、SNSには床上まで浸水したパチンコ店でパチンコ台が動き続けている様子が投稿され、「感電しないのか」と心配する声があがっていました。
消防庁のホームページによれば、電気製品に水がかかると漏電や火災などの原因になるとされています。
客が感電した場合、店の責任は
ここからが法的な整理です。
店側が漏電や感電の危険を予測できたにもかかわらず、安全確認をしないまま営業を続けたり、危険な場所への立ち入りを制限しなかったりして、その結果、客が感電してケガをした場合、民法上の不法行為として損害賠償責任を負う可能性があります。
さらにもう一段あります。事故の原因が店舗の電気設備などにあり、その設備が通常備えるべき安全性を欠いていたと判断されれば、民法717条の「工作物責任」が問題になることも考えられます。
| 責任の種類 | 問われる条件 |
|---|---|
| 不法行為責任 | 危険を予測できたのに安全確認をせず営業を続けた場合など |
| 工作物責任(民法717条) | 店舗の設備が通常備えるべき安全性を欠いていた場合 |
「客が勝手に打っていた」では済まないということです。 危険を予測できる状況で立ち入りを制限しなかったこと自体が、責任の根拠になり得ます。
従業員に対しては「安全配慮義務」
そして、ここが今回いちばん重要な部分だと思っています。
労働契約法では、使用者に対して、労働者が生命や身体などの安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をすることを求めています。いわゆる「安全配慮義務」です。漏電や感電のおそれを認識しながら、十分な安全確認・対策をせずに従業員に片付けをさせ、実際に事故が起きれば、安全配慮義務違反として会社側が損害賠償責任を問われる可能性があります。
客は帰れます。従業員は帰れません。 営業を続けると決めたなら、そこに立ち続けるのは働いている人です。
労働安全衛生法にも明文がある
関連して押さえておくべき条文があります。労働安全衛生法第25条です。
事業者は、労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等必要な措置を講じなければならない、と定められています。
短い条文ですが、内容は明確です。「急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止して退避させろ」。これは配慮ではなく義務として書かれています。
床が浸水し、足元に電源が通っている状態が「急迫した危険」に当たるかどうかは個別の判断になりますが、少なくとも検討すべき局面であることは間違いありません。
ユーザーの反応
この記事の拡散に対する反応を要約して紹介します。
- 「客商売かどうか以前に、企業として安全措置を優先する義務があるのでは」という声(企業責任を指摘する反応要約)
- 「法律の言葉で整理されたことで、感覚的な批判ではなくなった」という声(記事を評価する反応要約)
- 「従業員側にも退避する権利があることを、もっと知られるべき」という声(労働者視点の反応要約)
- 「打っている客がいる限り閉められない、という現場の事情も分かる」という指摘(現場を擁護する反応要約)
「客がいるから閉められない」という感覚は現場に確かにあると思います。ただ、法的には順序が逆です。危険があるなら立ち入りを制限し、営業を止める。それが責任を負う側の判断です。
従業員側も知っておいてほしいこと
ここまでは「会社が負う責任」の話でした。ただ、私はもう一歩踏み込んで書きたい。
働いている側も、安全を優先する意識を持っていいということです。
法は、従業員を守る側に立っている
整理し直すと、こうなります。
| 法令 | 誰に何を課しているか |
|---|---|
| 労働契約法(安全配慮義務) | 使用者に、労働者の生命・身体の安全確保への配慮を求める |
| 労働安全衛生法25条 | 事業者に、急迫した危険がある際の作業中止と退避を義務づける |
どちらも義務を負っているのは会社側です。 つまり従業員は、危険な状況で働かされない立場にあります。
現場で「危ないと思うけど、言い出しにくい」という空気があるのは分かります。ただ、その「言い出しにくさ」が事故を生みます。そして事故が起きた場合、責任を問われるのは会社側です。声を上げることは、会社を守ることでもあります。
現場でできること
| やること | 理由 |
|---|---|
| 危険だと感じたら、その場で上長に伝える | 判断の材料を上げるのは現場の役割。黙っていると判断が下りない |
| 指示された内容と時刻を記録する | 後から事実関係を確認する必要が出たときに効く |
| 浸水箇所での作業は電源遮断の確認を求める | 「たぶん切れている」で作業しない。確認を求めるのは正当な要求 |
| 復旧を急がされても、安全確認を先に | 後述の通り、水が引いても危険は残る |
「水が引いたら安全」ではない
最後に、これは全員に関係する話です。
豪雨が去ったあと「早く片付けて営業を再開したい」と考えるのは自然なことですが、水が引いたからといって電気設備まで安全になったとは限りません。浸水した店舗では、片付けや営業再開を急ぐ前に、まず電気設備の安全を確認することが重要です。復旧を急いだ結果、感電や火災といった二次災害を起こしてしまっては元も子もありません。
むしろ復旧作業のほうが事故の温床です。 浸水の最中は誰もが警戒していますが、水が引くと「もう大丈夫」という空気になる。そこで通電した設備に触れる。
以前も触れましたが、水害時は停電していてもブレーカーを切るのが基本とされています。見た目で判断できる領域ではありません。
まとめ
前回の記事で「批判されるべきは客か、店か」と書きました。法律の整理を見る限り、答えははっきりしています。客への賠償責任も、従業員への安全配慮義務も、負うのは事業者側です。
ただ、責任の所在が明確なことと、現場で事故が防げることは別の話です。実際に危険な場所に立っているのは、判断を下す人ではなく、働いている人だからです。
だからこそ、企業側の体制整備と同じくらい、従業員一人ひとりが「これは危ない」と言える環境が要ります。災害時の判断基準を事前に決めておくこと、現場から声を上げやすくすること。この2つが揃って、はじめて機能します。
次の災害は必ず来ます。そのときに、同じ動画が拡散しない業界であってほしいと思います。
※本記事は2026年8月16日時点の公開情報に基づきます。法的な整理は弁護士ドットコムニュース(2026年8月14日公開)の解説記事を参照しています。労働安全衛生法第25条の条文は同法の公表内容に基づきます。個別の事案における法的責任の有無を確定するものではありません。投稿の内容および反応はSNS上の投稿を要約したもので、原文の引用ではありません。
パチンコ・パチスロは18歳になってから。適度に楽しむ遊びです。のめり込みに注意しましょう。